普通に生きる事は

今日、芝居の稽古の帰り首都高初台入り口に入る手前の甲州街道のとある交差点で右折信号待ちをしている時、新宿方向から初老の男性と長い髪の肩に掛かる髪先が風に静かに後方に流れていく、背筋をしっかりと伸ばし美しい歩き方をしている少女。

あんな美しい歩き方を思い出させたものはなんだろう。二十歳前後だろうか美しい人だった。

片手をお父さんらしい方の右手に自分の左手を組みゆっくりと横断歩道を歩いて行く。
少しゆっくりで信号が変わらないか心配になった。
濃紺のシンプルなワンピースに白いソックス。黒いローハー。

ゆっくりだけどしっかりと白いソックスとローハーは歩道を確かめていたように見えた。

そして右手には長めの細長い白い杖が歩調に合わせたようにわずかに左右に、前後しながら動いていた。
父親を信じ、杖を信じ、信号も車も信じまっすぐゆっくりだけど歩いてゆく青信号を前に、前に、前に……。